「信じられないよ、広香が山になんて」
「私も」
私も、なんだ。
広香は、視線を落として続けた。
「これまで過ごしてきた時間とは、あまりにも、違うから。
やっていけるかなって、不安になることもある」
きら星のような矢楚にも負けない、平凡でも胸はれる人生を生きる。
そう強く誓うほどに、不安も膨む。
好きで頑張っても、結局は向いていないこともある、それが仕事の現実だ、と、
これから師匠として仕える陶芸家にも言われた。
「わかるよ、すごく」
広香は顔を上げた。
矢楚らしい、胸に射し込むような眼差しが待っていた。
「プロ契約したばかりの頃、オレ、ぐっちゃぐちゃだったから。
ユースでできてたことさえ、うまくやれないんだ。ちっともね」
シュートの仕方、忘れたんだ。あの日電話でそう言っていた。
「どうやって、乗り越えたの?」
矢楚が、困ったような顔で笑った。
「それが、自分でも分からないんだよね」
あ、デザート、準備したんだよ、おいで。
矢楚はそう言って、台所に誘いながら続けた。


