月も星もない夜だった。
二人はとくに会話をするでもなく、ただ静かに波の音を聞きながら歩いた。
体の奥深くが、波に同調していく。
人間世界のなにものからも、解放されているような気分だった。
体も心も。
整備された敷地内には、ライトアップされた椰子の木が、いくつも並んで明るい。
そこから浜に近づくにつれて、辺りは暗く、足元が悪くなった。
矢楚が電灯式のランプを点けて広香に渡した。
アダンという、幹の白い低木が、天然の生け垣のように浜辺に生息している。
高い位置から根が長く複雑に這っていて、
広香は足をとられた。
あっ、と思う間に、矢楚が腕を掴んで転ぶのを防いだ。
「ありがと」
「どういたしまして」
「さすが、すごい反射神経」
「予測、してたから。
サッカーに必要なんだよ」
「鈍臭さ、読まれてましたか」
矢楚が笑った。
まあ、そうだね。
ひどい、広香も苦笑した。


