広香の胸がびくんと、魚のように跳ねた。
サングラスぐらいでどぎまぎして
私、この旅をどう乗り切ろう。
困惑と不安で、広香の足取りは少し遅くなる。
木綿子が振り向いて、広香を力付けるように笑顔をくれた。
知也は助手席を降り、トランクを開けている。
近づいてきた広香たちの荷物を受け取ると、めんそ~れ(いらっしゃい)、と言った。
黄色い薄手のフリースにインディゴのジーンズ。春先の格好だ。
きっと沖縄では、コートはやっかいな手荷物になるだろう。
広香も木綿子も、知也に礼を言いつつ、トランクにコートをしまった。
木綿子が滑るように後部座席に乗り込んで、
「矢楚、久しぶり!それから、ありがとね!スポンサー」
と、屈託なく挨拶をした。
「こちらこそ、来てくれてありがとう」
広香が続いて乗り込むと、矢楚がそう言って後ろを振り向いたところだった。
グリーンベースのマドラスチェックのシャツ。
首や肩、背中が一回り大きくなった気がする。
陽に焼けた彫りの深い顔に、サングラスが似合っていた。
胸をさらうような逞しい変貌のなかで、柔らかい声だけは、変わらない。
「広香、飛行機、揺れなかった?」
矢楚に聞かれ、揺れた、と広香は微笑んだ。


