「うちは、商店だから、正月くらいしか休みがなくて。
その日、うちの両親とおじいちゃんおばあちゃんの四人は、近場に一泊の温泉旅行に行っていたの。
私は、ほら、この通りしっかり者だから、弟妹四人のお守りを、ひいおじいちゃんと一緒に任されたわけだ。
ひいおじいちゃんは、カクシャクとしてたから、水戸黄門みたいな感じね、だから私たちは、安心してた。
ただ、お母さんから、
どんなにひいおじいちゃんがお餅を食べたいと言っても、食べさせてはダメよ、
って私たちは注意されていた」
思い出すように、少し首を傾げて木綿子は話し続けた。
広香が、そっと、その手を握った。
広香の手、冷たい、と木綿子は笑った。
「留守番の夜、正月の祝い酒を飲んだ黄門様は、乱心あそばれて。
餅を食べるといって聞かないの。
大好物なのに、危ないからって何年も食べさせてもらってなかったから。
鬼のいぬ間にって、やつだよね。
一番下の妹までがお餅が食べたいと言って泣き出して。
うるさくてテレビが聴こえないって、弟たちが怒鳴りだすし。
家事に追われていた私は、面倒になって、
もう、食べればって、言っちゃった、んだ。
ドミノが一枚ばたんと倒れたらもうゴールまで止まらないみたいに、あとは窒息事故まで一息にいった。
私たちの目の前で、紫色になって苦しんで、
ひいおじいちゃんは死んでしまったの。
怖かったよ……あれは」
大きく息を吐くと、木綿子は温かい笑みを浮かべて矢楚たちを見回した。


