ここには、一年も通わなかった。しかも休んでばかりだった。
それでも、歩くだけで懐かしい気持ちになる。
ただ和やかに、そこに存在するだけでよかった場所。
知也の顔がよぎった。
会いたいな、無性に。
そんなこと言ったら、知也にキモチワルっと笑われる気がする。
ふっと笑みがこぼれた。
暗い校舎の脇を通り、中庭に着く。
夕闇の中でここだけが青白く浮き上がっている。
芝が発光しているかのような錯覚に、
矢楚はぐるり空を見上げた。
ああ、やっぱり。
大きく満ちた月が、 空の低いところで輝いていた。
はっとするような濃い色の月だった。
しばし、月を仰いだ。
光が体に染みていく。
風に吹かれて、心がほどけていく。
それは、広香が矢楚の胸に広げる静けさや神聖さ、そして安らぎに似ていた。


