携帯なんか、持たなければよかった。 プロ契約に伴い、携帯電話を初めて持った。 もう責任ある大人の世界で生きる身。 いつでも連絡がつくということは、最低限のマナーだった。 肌身はなさず持ち歩く携帯に、やがて強い誘惑が宿る。 広香の声が聞きたい。 初めは、一度だけのつもりだった。 それが、あと一度だけ、今度こそ最後だ、と。 今では姿を垣間見たいと、広香のアパート近くを徘徊するようになった。