怖がらせてる。 もう止めるんだ。 紫色の明けの空。 透かし彫りの白い月。 四時に家を出て、ひたすら走り続けていた。 もう二時間は経ったはずだ。 すべての感覚が麻痺するほど疲れるつもりだった。 それなのに、頭の中であの蜂はうるさく飛び続けている。 広香の声を聞くまでこの羽音は止まない。 五日ほど前から、矢楚は広香の家に無言電話を掛けていた。