「働く高校生に理解のある私立高があるんです。
芸能人やスポーツ選手も多く通う学校なんですが。
少し遠いけれど、通信制も併用するので単位も比較的容易に取れます。
矢楚くんは、そこへ編入したらどうだろうかと。
僕は、それを勧めますが」



「へぇ、それいいね」



何も言わない矢楚をちらり見ながら、美鈴がそう言った。


沙与が尋ねた。



「こちらの条件って、何を提示したんですか?」



「矢楚くんが高校を卒業したら、イタリアに二年間の期限付き留学をさせることが、僕らが一番目に掲げた条件でした。
世界で通用する選手になるために、ゆくゆくは海外のトップチームへの移籍を目指す、その足掛かりを作りたくて。
望んでいた通りの条件を勝ち取ったよ、矢楚くん」



どんな顔をすればいいのか、矢楚は戸惑う。いかなる感情も起きてはいなかった。

あえてそれを言葉にするなら、どうでもいい、ということだ。


梶原の尽力に対して礼を欠くことは言いたくないし、かと言って喜んでみせる気にもならない。


矢楚はただ静かに、ありがとうございました、と梶原に頭を下げた。