エージェントの桑原寛治が訪ねてきたのは、父の初七日が終わり、墓への納骨を翌日に控えた夜だった。
遺影と遺骨に手を合わせた桑原は、足を崩さずに後ろに座る矢楚に向き直り、
興奮を隠し、低く抑えた声で話を切り出した。
「ブィットリアが、こちらの条件をほぼ呑む形で、君とプロ契約を交わすことに同意した」
それまでの矢楚は、Jリーグの公式戦に出たとはいっても、ブィットリアに帯同されていただけで、
身分的にはユース生であり、プロとして契約していた訳ではなかった。
お茶を運んできた美鈴が、すごい、と呟いてから、
「え、でも学校は?辞めるの?」
と矢楚に尋ねた。
背後で固唾を呑んだ母と沙与の気配を感じた。


