沙与は、静かに手を伸ばし、矢楚の頭を撫でた。
矢楚がまだ小学生だった頃のように。
「矢楚。
お父さんの人生の最後のほうが、死にたくなるくらい惨めなものだったとしても。
それは、矢楚のせいではないよ。
誰のせいでもない。絶対に。
どうしてだか分かんないけど、お父さんは親になりそこなったんだよね。
子どもだったの。生き抜けないくらいに」
沙与の淡く気品のある面立ちは、凪いでいた。
沙与なりに答えを一つ導いて、過去と今に折り合いをつけて歩もうとしている。
それは、沙与だけの真理であって、自分とは分かつことのできないものだと矢楚は思った。
オレは間違えた。
それは父の死を招いた。
矢楚は自分を罰したかった。
自分のすべてを台無しにすれば、楽になれる気がした。


