矢楚は、自分と同じく部屋に残された母を見やった。 母はただ力なく座り、どちらの娘が去った方も見てはいなかった。 そこにいたのは、ただ一人の、愛に破れた女性だった。 矢楚は、沙与を追って家を出た。 玄関を出ると、 足早に通りを行く沙与の背中が見えた。 「姉ちゃん」 並んだ横顔に胸を突かれる。 沙与は声もなく泣いていた。