「すったニンジン、たっぷり入ってるから、栄養満点だよ。

おばさんね、
広香ちゃんが食べてくれるのが、一番、うれしいの。
広香ちゃん、感想を言ってくれるでしょ。食べさせ甲斐があるのよ。


うちの子らは当たり前になって美味しいとかなんとかも言ってくれやしないし。

木綿子は毎日ミニバスケで、帰ってきても疲れて会話もあんまり無いのよ〜」



愚痴まじりにそう言った木綿子の母の言葉が、
広香の胸にするりと入って温もりをくれる。


自分の存在が誰かに喜ばれいることが、
この時の広香にとってどれほどの救いになったろうか。




唯一の肉親である母の護りを失い、

嵐の海をさまよう小舟のような広香にとって、



木綿子一家の存在は、
普通の日常につなぎとめる港であり、



藤川矢楚は、心の美しさを失わないための導きの灯台だった。