矢楚。
広香は胸で名を呼んだ。
半年近く、思い浮べることすら避けていた名前を。
次々に、矢楚の姿が立ち上がってくる。
胸奥まで届く光をたたえて。
ねえ、矢楚。
何が、起きているの?
木綿子が、ぽつりと言った。
「私ね、矢楚が柴本亜希と付き合い始めたとき。
最低だって思った。
広香と別れてまだ二ヵ月じゃない、って。
矢楚の顔も見たくないくらいだったの」
「木綿子、あれは私が、」
木綿子は、わかってるよ、と広香に言ってから。
知也を見た。
「知也、知ってること、あるんじゃないの?
矢楚が柴本亜希と付き合うことになった、いきさつ」


