知也も近寄って、木綿子の両手にすっぽりと納まった白い焼き物を見る。
意外そうに知也が聞いた。
「広香、絵は辞めたの?」
中学の頃は、美術部で絵を描いていた。柊太の子守で辞めるまで。
高校でも、また絵を描くつもりでいた。
「はじめは、美術部に入部したの。入学して一ヵ月くらいは」
描くことは、広香の内に押さえ込んでいた感情を増幅させた。
哀しみ、苦悩、恋慕――。
何を描いても、すべてが矢楚に通じていた。
「だけど、すぐ辞めちゃった。
美術部の顧問に勧められて陶芸部に移ったの。
まったく新しいことを始めようと思って」
木綿子は、焼き物を戻して窓際に歩み寄った。
窓にむかって机が並べられている。そこには『ろくろ』が三つ、置かれている。
ろくろの前に腰掛け、窓の外を眺めながら、木綿子は静かに言った。
「気持ちいいだろうね、ここに座って、無心でろくろを回すの」
木綿子の前髪が風に吹かれている。
広香たちは、もう。
こどもだった季節の、終わりのほうに立っていた。
語らない中にも、多くの気持ちを伝え合えた。
この新しい場所で、
このろくろの前で、
広香が忘れようとしていたものが何なのか、木綿子も知也も解ってくれている。


