「こんな情けない事件を起こす前から、私と美鈴にあの人が父親らしいことをしてくれたことはなかった」
親と歩んできた道を振り返った時、
そのどこにも拾いあげるべき愛情の輝きが無かったとしたら。
こどもはどうして親を愛し続けることができるだろう。
「父さんは、オレにサッカーをくれたんだ。
だから、オレは父さんを見捨てるわけにいかないんだ」
矢楚は、手に取った文庫本を沙与に見せながら言った。この詩集、借りるね。
沙与は頷くと言った。
「師弟関係に、ヒビが入るわよ、女を奪うんだから」
矢楚は、肩をすくめた。
わかっているけど、他に行くべき道が見つからないんだ。
「来週から、学校しばらく休むよ。ブィットリアに帯同されるんだ」
沙与の険しい顔に、うっすら笑みがさす。
「いいことも、少しはなくちゃね」


