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「だめよ」
沙与は、顔を強ばらせた。
「あの娘と付き合うなんて。正気の沙汰じゃない」
矢楚は、エージェントからの電話を切った後、沙与の部屋へ来ていた。
父が在宅中は、沙与は決して部屋から出てこない。
矢楚は、沙与の本棚に並ぶ本の背表紙を眺めながら、ぽつりと言った。
「オレが柴本亜希と付き合えば丸く収まるんだ。
そうでもしない限り、親父があいつと別れるなんて、有り得ないんだ」
そう。親父にとってあいつは救いの女神さまなんだから。
沙与は、生気のない声で言った。
「地獄まででも、あの娘と行かせればいいじゃない」
沙与の書棚には、古今東西の詩集がたくさん並んでいる。
一つ手にとると、矢楚は、沙与を見た。
「地獄には、行かせらんないよ」
親なんだから。


