「お父さんが、現役時代の一時期、私がエージェントを務めていたのです。
その頃、まだ小さかったあなたとも、ご自宅で何度もお会いしました。
覚えていますか、お父さんは私を、寛ちゃんと呼んでいた」
矢楚は、一気に記憶が蘇った。
7、8年前、サッカー選手のサインなどを矢楚への手土産に、よくうちに来ていた人がいた。
父の友人かと、その時は思っていたのだ。
「はい、憶えています」
「よかった。
僕の力が必要になれば、いつでも連絡してくれ。
公式戦で華々しくデビューしても、騒がしいマスコミから君を守るから、安心して」
矢楚は、礼を言って桑原寛治の連絡先を聞いてから電話を切った。
家を出たあと、あの派手なスポーツカーのエンジンを温めながら、
父は矢楚のために昔馴染みに電話をかけて根回ししてくれたのだろう。
矢楚は、近くにある食卓のイスを引いて、腰掛けた。
やはり、父は、父なのだ。
そう思った途端、ある決意が胸に浮かんだ。


