矢楚は壁から身を起こし、リビングに向かった。
受話器をとる。
「はい」
「藤川矢楚さんのお宅ですか」
中年の男性の声だった。
「はい、そうです。僕が矢楚ですが」
「いましがた、お父さまにお電話をいただきまして。こちらに電話をかけるようにと。
スポーツ選手専門のエージェントをしている者です。桑原寛治といいます」
「エージェントですか?
父が、僕に電話するように言ったんですか?」
「はい。高校生の息子が、Jリーグの公式戦に帯同されるから、力になって欲しいと」
その人はかいつまんで説明してくれた。
エージェントとは、プロ選手がチームやスポンサーと契約する際に、交渉を肩代わりするだけでなく、
選手生活の全般に渡って相談にのる専門家なのだと。


