父は足元に目を落として言った。
「いいのか」
「え?」
「ブィトリアで、お前がやりたいサッカーができるのか」
「それは」
考えてもみなかった。
こんなに早く大舞台に引っ張りだされるとは、思っていなかったのだし。
「サッカーは、世界で最も美しいスポーツだ」
そう言った父は、ピッチの上でボールを追っていたときのような、力強い目をしていた。
「しかし、プロでは、なかなかそうはいかない。
とくに、ろくでもない監督がチームを支配している時は。
選手はピッチでもロッカールームでも地獄を味わう」
体に、電流が走った。
父が現役時代の華々しい頃は、まだ矢楚はこどもだったから。
サッカー哲学も選手としての本音も、聞くことはなかった。
親父、オレ、ずっとそんな話を聞きたかったんだ。


