土手を少しのぼり、それから歩道に向かって駆け下りる。 自転車の前まできたとき、広香は土手を振り返った。 しだれ桜は、やはりそこにいて、慟哭していた。 川に向かって崩れ落ちんばかりに。 矢楚の姿は、土手の頂上と幹に隠れて見えなかった。 いま、矢楚の目にあの桜はどう映っているだろうか。 広香は、溢れる涙を拭い、ひとり歩きだした。