広香の斜め前に立つ矢楚(やそ)の短い髪も、強い風に乱れている。 口火を切ったのは木綿子(ゆうこ)だった。注意深く、しっかりした声で。 「柴本さん。矢楚のお父さんは、自分で命を断ったんだよ」 風に巻き上げられる長い髪を手で押さえながら、柴本亜希は尋ねた木綿子ではなく、矢楚だけを見据えて言った。 「わたしが、追い詰めて、お父さんを殺したんだよ、矢楚」 亜希の大きな瞳が、闇で光る猫の目のようにぎらぎらと輝いている。