ドアに差し入れた鍵を抜いてカバンに入れると、
広香は廊下の手すりから身を乗り出し、階下を見た。
矢楚はすでに待っていた。
赤い自転車の傍らに立ち、自転車のカゴに入れた紙袋に手をいれてガソゴソと整理している。
広香は、しばらく上から眺めていた。
矢楚のオフホワイトのパーカーが、冬の陽に眩しく映えていた。
二の腕に赤い星のワッペン、袖にも赤いラインが3本入り、フードの裏地も赤だ。
ブルーの色合いがきれいなストレートジーンズを穿いている。
春風が強い。
矢楚の茶色い癖っ毛が、風に吹かれている。
あの髪に戸惑いもなく触れていた頃が、遠い前のことみたい。
矢楚は、広香の視線を感じたのか、こちらを見上げた。
その顔に笑顔が広がる。
目が合えば足が竦(すく)むかと思ったのに、
広香は吸い寄せられるように、階段を駈け下りた。


