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広香は押し入れから、母からのお下がりのショート丈のコートを出した。
母がうんと若い頃に着ていたそのコートは、
Aラインのケープコートで、温かい赤色も丸衿も、絵本の登場人物が着ているような、愛らしいデザインだ。
白いタートルに濃紺のタイトなジーンズを合わせて、赤いケープコートを羽織ると、ちらりと姿見で確認した。
目が、赤みを帯びている。
矢楚に、泣いたことを気付かれてしまう。
急いでタオルを濡らして、目を冷やした。
どう話すかは、だいたい決めている。
言えるだろうか。
大好きな人を傷つけると分かっていて、
臆病な自分のわがままを押し通せるだろうか。
でも、やるしかない。
遠くない未来に、かならず訪れることを、
ただ早めるだけなんだから。
先延ばしにしたら、
私の心は、もっとズタズタに切り裂かれてしまう。
タオルで冷やした目を、また鏡で確認した。
よくなってる。
広香は、ショルダーを斜めにかけ、
意を決して、ベージュ色のショートブーツを履いた。


