光の子




ピッチを駈ける矢楚には、これまで広香が目にしたことのない情熱が全身からほとばしり、
野性的ですらあった。


同時に、フォームやボールさばきに、一種のエレガントさがある。



赤の陣営にチャンスが到来した。


矢楚がボールを受け、一気にゴールへ疾走する。



なぜあんなに速く走りつつ、球が足から離れないのか、広香には信じられない。
まるで飼い主の前を走る忠実な犬のように、ボール自体が意志を持って、矢楚と駈けていくようなのだ。



矢楚は、DF(ディフェンダー)を置き去るようなドリブルで、二人を抜いた。


そして、ミドルシュートを蹴る。



ボールは美しい軌跡を描いて、GK(ゴールキーパー)の手もかすらないネットの隅に、突き刺さった。


どっと歓声があがった。


矢楚は、笑っている。
大きく両手を広げ、輝くように。

近くにいるチームメイトが頭を撫で、飛び付いた。



これが、矢楚なんだ。


サッカーを愛するファンを熱狂させずにはおかない。

矢楚に注がれる観客の拍手と称賛の声の中、
広香は、ひとり、その場を去った。