「どうして……」
広香は、思わずそう声を漏らした。何に対する疑問なのか、自分でも分からない。
遠藤なりに、広香の疑問を解釈したようだ。
「矢楚は、前に言ってたよ。ユースでプレーできる矢楚を羨むオレたちに。
こどもの時に憧れた、胸が躍るようなプレーは、許されない場所なんだ、って。
少し派手な技や、長いドリブルをしただけで監督に叱責されるらしいよ。
チームを勝たせるために堅実な戦い方を選ぶ監督には、ファンタジスタのプレーが規律を乱すものに映るんだ。
ファンタジスタはね、ゴールをただ決めるだけでは満足しない」
遠藤はぐるりと、広香たちを見回した。
「ファンタジスタが追求しているのは、
誰も見たことのないやり方で、美しいゴールを決めること。
勝ちさえすればいいと思う人には、余分なことに心血を注ぐ奴だと思われる。
だからファンタジスタを愛してくれる国民と、リスクや戦術を乗り越えて自由にプレーさせてくれる監督。
それがそろった国とチームにしか存在できないスターなんだよ。
だから矢楚が、望むようなサッカーをするためには。まずはファンタジスタが育つ国へ、行かなきゃだめだ。
きっとそれは、本人が一番分かっていると思う」


