広香の母は、 お腹に宿った命を失った日から、精神のバランスを崩しはじめた。 トイレで流産したと言った母の言葉が事実だったのか、それともそう思い込んだだけなのか、 広香は恐ろしくて誰に尋ねることもできなかった。 ただ母はふさぎ込み、表情が乏しくなり、 朝が起きれなくなっていった。 やがて家事が著しく滞りはじめ、 一日の大半を寝室で過ごすようになった。 義父が心療内科に連れて行ったが、 すでに重度の鬱状態、と診断され、そのまま入院してしまった。