矢楚は、柴本亜希の突拍子もない話に茫然としつつも、なるべく落ち着いた調子になるよう気を付けて答えた。
「柴本。オレ、付き合ってる子がいるんだ」
柴本亜希は、少し眉をあげて数回うなずき、知ってる、とさらりと言った。
知っててあんなこと言ったのか。
明確な言葉でなきゃ、柴本には伝わらないんだ。
「柴本とは付き合えないよ。好きな子がいる。すごく大切にしているんだ」
そう口に出した途端、矢楚が宝物のように胸に抱きしめる広香の姿が、脳裏に浮かぶ。
この寒々とした公園さえ、春風が吹き抜ければ清々しく思われるように、
広香を想うだけで、矢楚の胸には悦びが広がる。


