矢楚が、目が覚めたような思いに立ちつくしていると、柴本亜希は急に声を柔らげ、感心した様子で言った。
「藤川くんって、やさしくて、理性的だね。
こんなこと言われて、怒らないどころかシュンとしちゃって。
昨日美鈴に、電話で責められて泣かれて、ここで藤川くんに会うように言われたから。
私、てっきり正義の名のもとに、藤川くんにも自尊心をズタズタにされるかと思った。
だから理論武装してきたの。さっき言った言葉は、昨日必死にひねりだしたものだよ」
美鈴は、親友と父の両方に裏切られ、受けた衝撃も心の傷も、矢楚とは比較にならない。
矢楚は、あの夜から三日経って。少しだけ、冷静だった。


