会った目的から逸れ続けていく会話にじりじりしながらも、
矢楚は、身の上話をさりげなく切り上げさせるすべを、持ち合わせていなかった。
無理に話を終わらせる強引さも。
「柴本は家業を継ぐんだ。大きな酒造メーカーだよね」
柴本亜希が、やっと顔を上げた。
額のなかほどで、厚い前髪がまっすぐ切りそろえられて、きりりとした眉を引き立てている。
意志の強そうなその眉のしたで、黒々とした大きな目が、矢楚の目をじっと見据えた。
「藤川くんは、鷹高なんかでサッカー選手になれるの?」
「ん、鷹高でも、このまま今のクラブでサッカーを続ければ、プロへの道は狭くはないよ」
この春にクラブの年会費が払えるのか、先行きが見えない家庭環境だけれど。


