柴本亜希は、座ったベンチから公園を見渡して、不思議そうにつぶやいた。
「土曜の昼間なのに、こどもがいない」
「ああ、すぐ近くに、遊具がいっぱい置かれた大きな公園があるんだ」
それに相づちもせず、柴本亜希はがらんとした狭い公園を眺めている。
「藤川くんも、鷹高に行くの?」
突然の質問に、矢楚は戸惑った。
世間話をするような、そんな場ではないことは、お互い分かっているはずなのに。
鷹高とは、地元の公立高校のことだ。矢楚の中学のほとんどの生徒は鷹高へ進学する。
一ヵ月後に一般入試が控えていた。
「うん、鷹高を受けるよ。柴本は?」
流れにまかせて矢楚も尋ねた。
「私も鷹高。もう推薦で合格してるの」
たしか、父を尾行したあの夜は合格発表の日だったはずだ。
クラスから何人かが合格して話題になっていた。
切り出しにくいあの夜のことに触れるチャンスだった。


