まばゆい緑の芝を走り去る藤川矢楚の背中を広香は見送った。


藤川矢楚の足元のサッカーボールは、飼い主に嬉々としてまとわりつく子犬みたいだ。


どんどん小さくなっていく、藤川矢楚の背中。


それとは逆に、広香は心に光が満ちていくのを感じた。


藤川矢楚の輝きが、余韻のように広がっていく。



決めた。


広香は心でつぶやく。



あの家で何が起ころうと、お母さんとの関係が変わってしまっても、

私は醜い人間にはならない。


私も、あの子のような清らかさを持ちたいから。


藤川矢楚の眼差しが、

広香に差し込んで、歩くべき道を指し示してくれた気がした。