大切な息子のために作ったものだったのに。今更ながら、恐縮してしまう。



「おいしすぎて、なんか、申し訳ない」



「おおげさ」



矢楚はもぐもぐ頬張りながらしゃべる。
いたずらな笑みを目元ににじませて。


「泣いてる子にくれてやったんなら、母さんも、良くやったと誉めてくださるさ。
これ食うと、パワーが出るよ」


確かに。
広香は明るい力が満ちてくるのを感じた。

矢楚はあっという間に食べ終えると、
スポーツバッグから水筒を取出し、ごくごくと、何ともおいしそうに飲んだ。



「俺さ、よく、ここで自主練してるよ」



器用に足元のサッカーボールをリフティングしてみせる。


小学生とは思えない巧さだ。


「またね、泣き虫〜」 



藤川矢楚は、茶目っ気たっぷりに笑うと、
ボールを蹴りながら走っていってしまった。