車は、矢楚の自宅から五十メートルほど離れた、近所の植え込みのそばに停まった。ここからなら、目立つことなく矢楚の家のガレージを見張れる。
矢楚は時計を見る。七時半を過ぎた。
「電気が消えたわ」
沙与がつぶやくと、間もなく玄関が開き、父が出てきた。
モスグリーンのチェックのネルシャツに、黒いダウンベスト。エンジ色のニットキャップを被り、裾が絞られたカーキ色のワークパンツ。足の焦茶は、スウェードのブーツだろう。
いつもスポーツウェアばかり着ている矢楚より、父のほうがずっとオシャレだ。
三九歳という年齢より、若く見える父。
現役時代の父の華やかさを今に残す車、モスグリーン色のスポーツカーに乗り込んだ。
父は念入りにエンジンを温める。
十分近く経ち、ようやくガレージから車がすべり出た。
「さあ、現場を押さえるわよ」
沙与が淡々と言った。高槻は再び何も言わずに車を走らせた。


