「矢楚、お父さん出掛けそうだった?」 「うん、酒を一滴も口にしてないよ、きっと出るつもりだと思う」 矢楚の答えに、かすかに頷いて、沙与は高槻にめくばせした。 「じゃ、はじめましょう」 高槻は言葉もなく車をゆっくり発進させた。 沙与は、矢楚を振りかえって言った。 「降りるなら、今よ」 矢楚は、黙ってかすかに首を横に振った。 沙与は、やはりね、といった様子で肩を少しだけすぼめた。 どうせ後で分かることなら、矢楚は自分の目で確かめたかった。