光の子

「腹減ってない?」


「え?」



意表を突かれて、広香はぼうっと相手を見つめた。



藤川矢楚は、広香の返事を待たずにスポーツバッグをさぐっている。



「はい、これもあげるよ」


手元に投げて寄こされたのは、ラップに包まれた大きめの丸いおにぎりだった。

小さく切られた海苔が、サッカーボールの模様に貼り付けられている。


「かわいい」


思わず言うと、矢楚は嫌そうな顔をして言った。



「余計な可愛さだよ、まったく。
母さんて残酷なことするんだよ、でかい愛ゆえにさ。クラブでは食えないから、ここで食べちゃうようにしてるんだ」


そう言って、もう一個取り出すとかぶりついた。


「そんなこと、気にするタイプに見えないな」


「クラブではさ、舐められたらおしまいだからね」



広香は包まれたラップを外し、おにぎりをかじった。

「おいしい」


シャケが入っていた。びん詰めとかのではない、切り身の焼きジャケを大きめに砕いたものだ。
愛情を込めて作られたもの。