ふいに、か弱い草花が風にそよいでいるさまが浮かぶ。

冬の風に体をあずけ、なんとか生き延びようと咲く花。
広香と矢楚の恋の花。



夢なんて、目標なんて、
いまの私には遠い世界の、戦争みたいなものだ。

急に背中を押されて戦ってこいと言われても、
足元に咲く花を守ることだけが、今の私のすべてなのに。


広香は、母の顔も見ずに立ち上がると、旅行バッグを探り、財布を取り出した。

後ろで母が、広香、と小さく呼び掛けたが、
それに応えずコートを羽織ると、アパートを出ていった。