広香は、肩を引いて母の手を払った。 「私が、昔のお母さんみたいに、空っぽだって言いたいんでしょ。 夢もない、目標もない、取り立てて得意なものもない、空っぽな子だって」 母の半生も、そこに漂う教訓も、今日の広香には聞くに堪えない不吉なものだった。 自分と矢楚の恋が成就しないことを母がほのめかしている気がして、頭にくるのだ。 特に今日は聞きたくなかった。 矢楚が自分のもとから羽ばたいていく、そんな幻しを院内図書室で見たばかりだったから。