「広香には、お母さんみたいな、振り回されるばかりの恋愛をしてほしくなくて」
広香は、苛立った声でさえぎった。
「私は、お母さんとは違う」
不吉なことを言われて幸先(さいさき)を悪くされたような、そんな不愉快な気分でたまらなくなる。
そうだ。
胸でのたうつ苛立ちの首根っこをつかんだ気がした。
広香は、自分と矢楚の恋愛を、母のそれと同じにされることが、我慢ならなかった。
違う、私はお母さんとは。無残に砕けたお母さんの恋愛とは、絶対に。
母は、四角い座卓の向かいではなく、
今度は広香の右横の辺に座ると、
強ばっている広香の体をほぐすように、広香の右腕をさすって言った。
「そうなのよね、広香はお母さんとは、違うよね。
許してね、親心なのよ。
娘の幸せを願うあまりに、先回りしすぎなのね」


