疲れた。
広香は芝の上に体育座りをすると、膝に顔を埋めた。
広香にとって、いつか母とあの家を出る日がくるかもしれない、ということが、かすかな希望だった。
かすかでも、あの家で疎(うと)まれて暮らす広香にとっては、日々をしのぐに十分な希望だったのに。
もう、あの家で耐えていくしかない。いつか一人で出ていけるまで。
ふと、新しく生まれる子のことを考えた。
その子は皆に祝福されるだろうか。
居場所がない自分は、新しい生命(いのち)を大切に思うことができるだろうか。
義理の姉の、広香を見る憎しみに似た表情を思い出した。
もし自分の心に、あんな醜い気持ちが生まれたら?
お母さんの愛を独占できないことより、赤ちゃんを憎み妬む自分になってしまうほうが、ずっと、怖い。


