手首に、矢楚の柔らかな呼吸が触れる。
二人、何も話さず
数十秒が経った。
矢楚は再び目を開け、
広香を見上げた。
頬に当てられた広香の両手をとり、矢楚は自分の胸の前で優しく包む。
「俺のために、走って来たんだね、広香」
広香は、黙ってただ矢楚をみつめた。
「修学旅行‥‥。
あんなに楽しみにしてたのに、ごめんね」
旅行なんて、どうでも良かった。
いま、こうして矢楚の傍にいれること。
そのことに、広香は感謝すらしていた。
でもそんな気持ちは、うまく声にならなくて。
だから広香は、ただ微笑んで、
そんなの、いい。
と言った。


