「どうかしたの」 広香の声は、震えていた。 なぜかは分からなかったが、二人の様子に不安を掻き立てられる。 知也は口に当てていた手を慌ててはずし、木綿子は腕組みをほどいて広香を見つめた。 「広香」 木綿子はそう言ったきり、次の言葉をためらって知也を見た。 不安が増した広香は、自ら口火を切った。 「矢楚は?」 木綿子は、諦めたような意を決したような、複雑な顔で話しだした。