「お母さん、出よう、この家。再婚するとき、お母さん言ったよね。私のために結婚するって。お母さん一人の稼ぎじゃ、私が望むような進路を歩ませてあげられないからって。
だけど、この家の人が私のためにお金だしてくれると思えないし。
義父さんだって、仕事ばっかりで家にもいない。
こんな結婚に、なんの意味があるの」
そう一気に吐き出して、広香は母の横顔を見つめた。母の顔は強ばっていた。
どこか痛いのではないかと思わせるほどに。
しぼりだすような声で母が言った。
「広香、お母さんね‥‥。お腹に‥‥」
広香は目を見開く。
「赤ちゃんが‥‥」
そこまで言って、母はやっと広香の目を見返した。
その瞳の中で、母の不安がさざ波のように揺れて広香を内包している。
もう、この家から逃げられない――。
瞬間、広香の頭に浮かんだのはそのことだった。
「まだ、義父さんにも話してないのよ、でもね、」
広香は、母が言い終わらないうちに、手に付いた泡もそのままに家を飛び出した。


