矢楚は姉と亜希に構わず、手足を洗いに洗面所へ行った。
戻ると二人の姿はなく、
間もなくダイニングテーブルに母が夕食を運んできた。
照りが食欲を誘う豚の生姜焼きにはふんだんにキャベツの千切りが添えられ、
カイワレが鮮やかなハマグリの吸い物椀や、水菜とトマトがザクザクとした鳥のササミのサラダも、
母の手が伸びて一品一品食膳に並ぶと、ゴタゴタ続きの家庭にも彩りと豊かさが感じられ、矢楚も自然とやすらいだ。
「母さん、柴本はもっと早く家に帰したほうがいいんじゃない?」
箸を伸ばして矢楚がそう言うと、母はぐったりと向かいに腰掛けた。
「若いお嬢さんだもの、お母さんもそう言ったわ。
でも、亜希さんね。
うちには叱る人もいないし大丈夫ですって言うのよ」
それにね。
困り果てた顔で母は続けた。
「美鈴が、あんまりにも亜希さんを帰したがらないから。
もう、すごいのよ、べったりなの」
矢楚はサラダにドレッシングをかけながら母に言った。
「相当、贅沢させてもらってるからね」
母は眉を上げた。
「え?贅沢って、なに?」
「やっぱり美鈴、母さんになんも言ってないんだね。コンサートだの、カラオケだの、柴本亜希が金を全部出しくれて、二人で派手に遊んでるらしいよ」


