ことばを失ったまま、矢楚は広香を見つめた。
さっき見惚れたばかりの耳たぶのサクラ色と、ふわっとして柔らかそうな頬。
見つめると、花のような、果実のような甘く爽やかな香りが、矢楚の心の中に広がる。
奇跡、という言葉が浮かんだ。
もし奇跡を形にしたなら、それは広香の姿をしている。
きっと慈愛も、幸福も、可憐も。
この世界の美しいものは、すべて広香につながっている。
そう思って無防備に眺めていたら、広香の唇が急に強烈な引力を宿した気がした。
(キスしたい)
振ってわいた欲求はすぐに脳を覆いつくす。
だめだ、矢楚はとっさに目を閉じた。
耐えろ。
その線を越えてしまえば、コントロールできないに決まってる。
広香で心がいっぱいになりすぎると、きっと何も手に付かなくなるぞ。


