それから数日が経った、土曜の昼下がり。
食べ残しを乗せたままの食器が乱雑に重ねられているシンクを前に、広香は母に訊ねていた。
「私が、洗うの?」
それに答えたのは母ではなく、キッチン背後のダイニングテーブルで食後のお茶をすする義理の祖母だ。
「広香ちゃんも、六年生なんだから、家のこともやらないとね」
「働かない奴は、食うべからず」
冷たい声で、中学生の義理の姉が言った。
広香は振り向いて、冷蔵庫からアイスを取り出した義理の姉·華美(はなみ)に、平坦な口調で聞いた。
「そっちは、何か手伝ってるの?」
華美専用アイスの包み紙をもったいぶった様子で剥がしながら、義姉は勝ち誇ったような顔で言った。
「私はあんたと違って私立中学に行ってるんだから、勉強も仕事のうち。
悪いけど、あんたとは違うから。それに。あんたの母親でしょ、手伝うの当たり前なんじゃないかなぁ」
冷たい一瞥をくれて、華美はさっさと自分の部屋へ引っ込んだ。
「華美だってね、広香ちゃんくらいの時には手伝いしてたわよ」
義祖母は広香の母に向かって言った。
少し声を張っているのは、華美に自分が弁護しているのを聞かせたいためだろう。華美は、誰に対してもむくれた顔しか見せない。
あの人、学校ではどんな顔してるんだろう。ふとそう思い、どうでもいいや、と広香はその疑問を振り払う。
広香は息をついて、スポンジを手にした。
こういう家事を押しつけたくて、彼女たちは広香の母をこの家に迎えたに違いないのだ。
ならば連れ子の私に、反抗する余地などないわけだから。


