一秒でも早く。
あの場所に、帰りたい。

カナタは自分の奥底から湧いてくる得体の知れないものに、焦っていた。


ここにいると、何かが狂ってしまいそうだ。


早く。
すべてが正しくある、あの家へ。
ダイチの気配の残る……。


「ミナ、着替えよ」


高田さんたちと別れてしばらくたってから、カナタはまた、別のビルに入った。
母がたまに女性用トイレのドレスルームを利用していたことを思い出す。
受付で聞いてみると、3階にあるということだった。


「おにいちゃん。かわいい?」


始めに着ていた服を差し出すと、ミナは露骨に不満げな顔をした。
これじゃダメなの?ということだろう。


「うん。かわいいよ。でも、出かけた時と違う格好じゃ、ばあちゃんがびっくりしちゃう」


もっともらしい理由をつけると、ミナはしぶしぶ、頷く。不承不承という感じで、ドレスルームへ入って行った。

それを見送り、カナタもトイレの個室に入る。


戻らなきゃ。


切実に、思う。


このところ薄っすらと感じていた不安が、このたった数時間で、確かな不安へと変わってしまった。


全部自分が悪い。
カナタにも、それはわかってる。

けれど、それでも、どうにもできない。