ハァ、ハァ、ハァ、


少し速度をあげただけで、体は、情けないほどすぐに疲れを訴える。

だいぶマシにはなってきたものの、街中で育った17年間は、予想以上に足腰を甘やかしていたようだ。
運動が極端に苦手というわけではないし、毎日それなりの距離を歩いていたつもりだったのに、この地に越してきて、それがいかに狭い範囲のできごとだったのかを思い知った。


早く。

早く。


それでも挫けずに毎日高校までの往復、長い距離を通い続けるのは、大切な理由があるからだ。

こうして、学校終わりの気持ちを急かすのは、怖れにも、幸せにも、照れくささにも似た想い。


「……ふぅ」


ガシャ


息をつき、古びた平屋の庭先でスタンドを下ろす。
耳敏くその音を聞きつけて、いつものように迎えが出てきた。


「ただいま」


にっこりと懐っこく笑う、色白の女の子。
黒髪を長めのおかっぱに揃えた彼女は、パタパタと駆け寄ると、容姿に似合わぬ大胆さで、嬉しそうに首に抱きついてくる。