距離が近すぎると、女の子に慣れていないカナタはつい、ドキッとしてしまう。
でも、そうでなければ、ミナといるのは、嫌じゃない。

それどころか。


--身代わりも、いい。


初めこそ面食らったものの、今ではカナタにはこれ以外の生活なんて考えられなかった。

求められ。
特別に想われ。


それでミナが楽しいなら。
これでカナタが笑えるなら。


誰かに必要とされ、頼られることは、予想以上に嬉しいものだ。
面倒くさいとも、窮屈だとも思わなかった。


できるならば、もっと、兄らしくなりたい。
ダイチのようになるのは無理かもしれない、けど。もしダイチが生きていたらきっとしているだろうことを、カナタはどう足掻いてみても、できはしない、それでも。


幸い、ミナはカナタを慕ってくれている。

彼女の中の兄の基準がどうなっているのかわからない。
わかるのは、今はカナタが「おにいちゃん」だ、ということ。


「ご飯、できたみたいだね」

台所から祖母が二人を呼ぶ声がする。
カナタは、スケッチブックを閉じると、ミナの頭をふわりと撫でた。
慣れももちろんある。こんな仕草を恥じらいもなくできるなんて。
くすくすくす
喉の奥を鳴らして、まるで子猫のように喜ぶミナを見ると、カナタはこの上なく優しい気持ちになった。
だから、多少の気恥ずかしさを押しのけて、こうして、好んで、頭を撫でてやる。