木下君と分かれて家に帰ったあと。


しばらくしてお母さんが買い物から帰ってきたので、私はお母さんの元へ行く。



「あ、あのお母さん、ごめんね?」




台所でスーパーの袋をおろしていたお母さんは、いきなり謝る私に不思議そうに首を傾げる。



「えっと、お母さんには何度も言おうと思ってたんだけど、恥ずかしくって言えなくて……実は夏休みに入る少し前から付き合うことになって……」




モジモジしながら説明する私に、気持ちを察したようにお母さんは優しく微笑む。




「カッコいい子だわね」

「そ、そう?」

「うん。それに礼儀正しいし良い彼氏じゃない」





お母さんにそう言ってもらえて、私はホッとする。





夜になり、お父さんが仕事から帰ってきた。



「おお、今日の夕飯は豪華だなぁ」



リビングの机には、ハンバーグに唐揚げに
謎の鯛のお頭、それに赤飯まで並んでいる。


お母さん…これって…

何も知らないお父さんは、スーツを脱ぐと嬉しそうに食卓につく。



「なんだなんだ宝くじでも当たったのか?」



お母さんは笑顔でお父さんにビールをつぐ。


私も食卓に座ると、みんなでいただきますをする。





私は勇気を振り絞って、恥ずかしいながらも、お父さんにも木下君の話をすることにした。



「あ、あの…お父さん」

「ん?」

「実はね…私……同じクラスで彼氏ができた…」




お父さんは、ビールを口から吹き出す。


お母さんは冷静にお父さんにティッシュを渡し、お父さんは震える手で口元を拭きながら、静かに眼鏡をかけなおす。



「そ、そうか」



お父さんは動揺を見せまいと、すました表情でそう言う。



しかし


「イケメンだったわよ」


というお母さんの台詞に

今度は味噌汁もひっくり返した。