赤い布地に黒い斑点が散った衣装を纏い、俺は触角を頭につける。 小さな舞台を見つめて深呼吸をした。 客の入りはいつものごとく疎ら、 きっと舞台に立てば千早を簡単に見つけることが出来るだろう。 だが、それじゃ駄目だ。 全神経を芝居に集中させなければ、意味がない。 俺の晴れ舞台を、 俺の120%を、届けたい。 想いをこめて、演じたい。 「千早…。」 名前を口にするだけで、千早がすぐ近くにいる気がした。 俺は自分に気合いを入れて、 光が落ちる舞台へと一歩踏み出した――。